推し活を楽しむみなさんが一度は行ったことがある「コラボカフェ」。SNSでもコラボカフェの投稿を目にする機会が増えてきましたよね。
しかし、そのコラボカフェのメニューを「誰が作っているのか?」と考えたことはありますか?
そこで今回は、コラボカフェ専門のフードコーディネーターとして活動されている郡司ちほさんにインタビュー!
元々料理が好きで、幼い頃からアニメや漫画にも親しみがあったという郡司さん。とある出来事がきっかけで、今のお仕事と出会うことになります。
コラボカフェに携わるようになった背景や、プロデュース側として感じることなど、気になる質問に答えていただきました!コラボカフェの裏側やコラボカフェ専門フードコーディネーターのお仕事についてわかる内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください☆
郡司ちほさん プロフィール
コラボカフェ専門フードコーディネーター。大学時代にフードコーディネーターの資格を取得し、卒業後は複数の飲食会社でメニュー開発を担当。その後、漫画やアニメの世界を五感で楽しむことに興味を持ち、コラボカフェのメニュー開発に携わる。
2022年に独立・起業。コラボカフェ専門のフードスタジオ「CollaboLic Table」を立ち上げる。
【主な保有資格】(一部抜粋)
- 調理師
- フードコーディネーター
- 惣菜管理士1級
- 食育インストラクター
【主な保有資格】(一部抜粋)
- 柿安本店 料理コンテスト2011 最優秀賞
- ハインツ 洋食アイデアレシピコンテスト 準グランプリ
- ふじっこ 丹波黒黒豆レシピコンテスト 準グランプリ
【関連リンク】
- 「CollaboLic Table」公式サイト:https://collabolic-table.hp.peraichi.com/top/
- ブログ「コラボカフェ研究部」:https://ameblo.jp/chiho-gunji/
- X(@Gunji_ccf):https://x.com/Gunji_ccf
- Instagram(@chiho_gunji):https://www.instagram.com/chiho_gunji/
「コラボカフェのメニュー開発」というお仕事をするようになったきっかけについて教えてください
幼稚園の卒園文集の時点で「将来は料理の先生になりたい」って書いていたくらいなので、食の世界で働きたいという想いはずっとありました。アニメや漫画も元々好きでしたが、正直それを仕事にしようとは思っていなかったんですよね。
転機となったのは2015年に『進撃の巨人』の4DXの映画を観たこと。「五感で楽しめる映画」と謳われていたので、食の世界に興味があったこともあり「どういうふうに五感で楽しめるんだろう?」と思って行ったんですが…結局味覚で楽しむことはできなかったんです。
それがきっかけで「2次元の世界を味覚で楽しむために何かできないかな?」と思っていろいろと調べました。その中で「コラボカフェ」に辿り着き「私もやってみたい!」となって、今に至ります。
私も映画は好きでよく観に行きますが「味覚で楽しめてない」と考えたことはありませんでした…!そういう発想に至ったのも、「食」に関心がある郡司さんならではなのかな、と。元々アニメや漫画などの2次元コンテンツが好きだったとのことなので、コラボカフェとは、まさに運命的な出会いをされたんですね!
メニュー開発をする上で大変だと思うことはありますか?
何個かあるんですが、1つは「再現不可能なメニュー」がどうしても出てくること。「これを再現したい!」と思っても、物理的に無理だったり、作る方法がないメニューがあるんです。再現不可能な色だったりとか…
もう1つは、リサーチに関すること。原作を知らなくても、アニメや漫画だったらまだ見られるんですが、ゲームだったりすると何年分ものリサーチが必要になるので、どうしても追えないんです。
そういう場合は詳しい方にお聞きしたり、インターネットで検索して情報を得たりします。漫画喫茶に行って、1日原作漫画を読んでリサーチしたこともありますね。
コラボカフェは準備期間が短いので、知らない作品やコンテンツを取り扱う時の情報収集は大変だなと思います。
「コラボカフェ」と言うからには、やはり元となる原作やキャラクターありきのメニューを考える必要がありますよね。作品やキャラクターのイメージが強いですが、ゲームとコラボすることもあるとは驚きでした!確かにソフトを買って実際にプレイするのは、時間的に厳しいものがありますよね…。
コラボカフェは準備期間が短いとのことですが、そこに関しても大変さを感じますか?
そうですね。すごくタイトなスケジュールで準備をする必要があるので…。短いと1ヶ月前、長くても2〜3ヶ月前に依頼が来るので、メニュー案を出すまでは大体1週間くらい。こういうスピード感に関しては、普通の飲食店とは全く違うところかなと思います。
新卒で入った会社も飲食業ではあったんですが、例えば「クリスマスのメニューを開発する」となったら1年くらい前から準備を始めるんです。“長い時間をかけ、修正を重ねて良いメニューを作っていく” というのが一般的だと思うのですが、コラボカフェの場合は “短い期間でどれだけ良いものを作れるか” が大切になってきます。
フリーランスとして独立され、現段階ではメニュー考案から調理まで1人で担当されているという郡司さん。短い期間の中で多くのメニューを考えるのは気が遠くなる作業なのでは…?と思いましたが、郡司さん曰く「量を考えるのは苦にならない」とのこと。幼い頃から今まで一貫して「料理が好き」という想いがあるんですね。
作品だけでなくアイドルや声優の方とのコラボカフェもありますよね。そういう場合は何を元にメニュー開発をされるのでしょうか?
アイドルの方だったりするとご自身のカラーがあるので、その色を使ったメニューを開発したりします。ほかには、その方の好きな食べ物や出身地、エピソードから着想を得ることもありますね。
あと、例えばお名前に「桜」という文字が入っていたりすると、桜に関連したメニューを考えたりします。
キャラクターや人物とのコラボカフェの場合、どうやってメニュー開発をするんだろう…?と思っていましたが、メンバーカラーや出身地など、意外とヒントになる情報はあるとのこと。そういった「情報」を「料理」に変えられるのはすごいですし、まさにプロの技ですね!
お仕事のやりがいを感じるのはどんな時ですか?
今の時代は、XなどのSNSにコラボカフェの投稿をしてくださる方が多いので、「食べてみたい!」「このメニュー考えたの神!」のような口コミを目にすると、嬉しくなります。
ただ「美味しい」「美味しくない」ではなく、ファンの方と同じように “作品を理解して” 出来上がったメニューだということが伝わると、モチベーションに繋がります。
お客様と直接関わる機会がなかったとしても、SNSを通じて反応を得られるのは嬉しいですね。行くつもりがなかった人も、コラボカフェのメニューが美味しそうであれば「実際に食べたい!」「行ってみようかな」となりますよね♪
ご自身が担当してきた中で「このコラボは珍しいな」と思った案件はありますか?
私の中で一番珍しいなと思ったのは『闘魂三銃士』というプロレスラーのユニットとのコラボカフェですね。
女性ファンの方も多いとは思うんですが、結構男性向けのガッツリ系メニューを開発した思い出があります。今までとは違うジャンルだったので、貴重な経験になりました。
『闘魂三銃士』(とうこんさんじゅうし)は、1984年に新日本プロレスに同期入門した武藤敬司さん、蝶野正洋さん、橋本真也さんの3人で結成されたユニット。
メニューを拝見したところ、確かに「ちゃんこ鍋」や「ラーメン」といったガッツリメニューが並んでいて、かなりお腹いっぱいになりそうだなと思いました!
郡司さんのブログには当時のメニュー開発の背景や、お気に入りメニューについて書かれているので、そちらもぜひチェックしてみてください♪
プロデュースする側としてお客様に知っておいてほしいことはありますか?
知っておいてほしいこと…というより、やっぱりお客様が気になるのは「値段の高さ」じゃないかなと思います。ブログでも「コラボカフェはなぜ高いのか」という記事が一番人気ですし…。
よく「ぼったくり」という声も聞くんですが、コラボカフェはチェーン店でもなければ、開催期間が長いわけでもないので、どうしてもメニューの原価が下げにくいんですよね。
食材費自体は普通の飲食店と同じように20〜30%程度ではあるんですが、ここに食材以外の経費が加算されます。装飾品やノベルティはもちろん、やはり「コラボ」カフェなので作品などの権利元にお金を支払う必要があります。(※権利元によって金額は異なる)
あと、カフェでかける音楽にもお金がかかりますね。常設だったらまた少し話が変わってきますが、大体数ヶ月スパンでコンテンツが入れ替わる「期間限定」型なので、その都度お金がかかってきます。
私もこのお話を聞くまでは正直「いいお値段するな…」と感じていましたが、それは闇雲に高くしているわけではないことがわかりました。コラボカフェはただ食事をする場所ではなく、作品や推しの世界に浸かれる「体験」ができるところなので、その分の値段と考えれば妥当な値段かもしれません。
経費以外のところでは何かありますか?
そうですね…これはお願いに近いものになるんですが…コラボカフェで度々起こるのが「食べ残し問題」なんです。例えば、ノベルティだけもらって、料理は食べずに帰ったりとか…。
特に誕生日メニューなど「頼むと誕生日限定のノベルティがもらえる」といったものだと、テーブルに並びきらないくらい(20〜30皿ほど)の量を頼んで、一口二口食べて帰る、なんてこともあるようで…。
最近は「ドリンクチケット」のようなシステムを導入しているカフェもあります。ノベルティがその場でもらえて、ドリンク自体は後日頼めるっていう、引換券みたいなものですね。でも、それだとどっち(ドリンクとノベルティ)が目的なのかわからなくなってしまうので…。
やっぱりプロデュース側としては、あくまで「カフェ」なので「食べ物を楽しむ」ところを第一の目的にしていただきたいなという想いはあります。
私は食べるのが大好きなので、シンプルに「もったいない!!」と思いました…。一時期SNSに写真を載せるためだけに “映えスイーツ” を買い、食べずにゴミ箱に捨てることが多発して社会問題となりましたが、コラボカフェでも同様のことが起こっていたとは…!
推しのグッズと一緒に写真を撮ったり、そこでしかもらえないノベルティを目当てに行く気持ちはよくわかります。
しかし、コラボカフェを開催するにあたって、郡司さんのようにメニュー開発を担当された方や、その他大勢のスタッフさんが見えないところで一生懸命準備をされているので、「食べずに帰る」なんてことは本当にやめてほしいと思います…。
少しプライベートな質問になりますが、郡司さんご自身は何か推し活をされていますか?
めっちゃしてます!!今一番推してるのは『ヒプノシスマイク』です。コラボカフェがあれば行きますし、グッズも買いますし、ライブがあれば応募して、落ちたら泣きます(笑)
あと『A3!』とかアイナナ(『アイドリッシュセブン』)とかは、お仕事をきっかけにハマりました。
とても楽しそうに話されているのが印象的でした!コラボカフェのメニュー開発をされている方が推し活を楽しんでいるのは親近感が湧きますし、嬉しくなりますね♪
最近韓国料理がブームになっていたりしますが、好きな料理はありますか?
そうですね…強いて言うなら甘いもの?(笑)実は辛いのが苦手なので、韓国料理とかはあまり食べないです。
メニュー開発でも韓国はやったことがないんですが、中華料理は担当したことがあります。コラボカフェのテーマが「中華」だったり、チャイナ服を着ているキャラクターとかだったりすると、それに合わせたメニューを考えます。
確かに、「中華風」や「アメリカン」のようにコラボカフェ限定のテーマが設けられることもありますよね。それに合わせて作るとのことなので、より多くの料理の知識が必要なんだなと感じました。
今AIの登場で世の中が変化してきていますが、コラボカフェにも影響はありますか?
そうですね…実は私も、ChatGPTでメニュー開発を試みたことがあるんです。「この楽曲をイメージしたメニューってどんなもの?」という感じでやってみたんですが…やっぱりちょっと違ったんですよね。ちょっとオタクやファンの心がわかってないな、と言いますか(笑)
やっぱり “ファンの心理を活かしながらのメニュー開発” っていうのは、コンピューターにはできない分野かなと思っています。
ChatGPTでメニュー開発を試みたとは驚きです!しかし、AIはあくまでもシステムなので、やはり複雑なオタク心まではわからない様子。メニュー開発はお客様から見えない部分ですが、こうして最新テクノロジーと比較して「ファンの方に喜んでもらうためには?」を追求する郡司さんは素晴らしいですね。
コロナ禍を経て、コラボカフェ業界で変化した点などはありますか?
コラボカフェの良さって「そこに行かないと手に入らないメニュー・グッズ」なので、コロナ禍前はすごく人気のあるコンテンツだったんですが…コロナ禍で通販でのグッズ購入が当たり前になったこともあり、実はコラボカフェってかなり閉店してしまったんです。
今は盛り返してはきているんですが、やっぱり全てが同じクオリティではないなと感じています。ホテル並みに品質が高いメニューを出しているところもあれば、料理よりもグッズ販売がメインというところもあるので…コラボカフェの二極化が起きているのかな、と。
あとは最近だとファミリーレストランでもアニメ作品などとコラボしたメニューを出すことがあるので、そうなってくると、通常のコラボカフェは値段的にも知名度的にも厳しいものがあります。
そのため、大手ができないような「ファンの心理を活かした」「ファンが本当に喜ぶ」メニューを追求して出していくことがより一層大事になってきているんだなと感じます。
コロナの影響がこんなところにもあったとは…。また、令和になって「推し活ブーム」がやってきたことも大きな影響の1つ。これまでコラボカフェ限定だったものが、様々なお店で体験できるようになっているので、どう差別化していくかが重要になってきているんですね。
最後にご自身が理想とするコラボカフェ像について教えてください
「コラボカフェを日本の文化にしたい」という想いがあるので、今は和菓子の勉強とかもしています。コラボカフェならではの「推しを食べる」(推しを味覚で楽しむ)という部分と、日本の食文化を組み合わせた取り組みをしていきたいな、と。
あとは「コラボカフェの料理の質を上げたい」というのはこの仕事を始めた当初から思っています。元々コラボカフェは「学校の文化祭レベルの料理なのに高い」「まずい」「ドリンクが色水」みたいな低評価が多かったんです。
今は昔よりそういうイメージが薄れてきてはいるものの、まだ根強く残っていたりもするので…。予算の関係で難しいケースもありますが、メニュー開発を通して変えていきたいという想いは常に持ち続けています。
コスプレイベントなどは欧米でも行われていますが、コラボカフェはあったとしても中国などのアジア圏にとどまるとのこと。コラボカフェに行くことを目的に日本を訪れる外国人観光客が増えれば、新たな文化になるかもしれませんね。
今回郡司さんにお話を聞いてみて、本当に勉強になることばかりでした!
昨今の「推し活ブーム」に多くの企業が注目したことで、馴染みのあるファミリーレストランでコラボメニューが出たり、特定のコンテンツとコラボせず、それぞれの推しで楽しめる「推し活カフェ」が増加したりしています。
このように様々なところで「推し×食」が楽しめるようになってきたことで、コラボカフェの「限定感」が薄れてきているのかな…とも感じました。
しかし「大量に注文して食べ残す」や「ノベルティの転売」は見逃せない問題。「美味しく食べてもらいたい」と思って作ったものが、手付かずの状態で廃棄されてしまったら、悲しくなりますよね。
推し活が盛り上がっている今だからこそ、「コラボカフェの楽しみ方」を見つめ直し、“推しの世界に浸りながら食事を楽しむ場所” として広がっていけばいいなと思いました!
コラボカフェは作り手の想いが詰まった料理を楽しむ空間
コロナ禍で多くが閉店してしまったというコラボカフェですが、昨今の推し活ブームをきっかけに店舗数は増加。毎月全国各地で多数のコラボカフェが開催されています。
個人的にはプロ野球が好きなのでよく球場に観戦しに行くのですが、球場でも選手やマスコットキャラクターとコラボした食べ物が販売されています。正直かなりいいお値段がしますが、クオリティが高くてボリューム満点なので、いつも長い列ができるくらい人気です。また、「〇〇選手の」というように推しの名前がついているだけで食べたくなってしまうファン心理もありますよね。
この「ファン心理」や「オタク心」を理解して作られているのが、郡司さんが手がけるコラボカフェのメニュー。
「美味しく食べてもらいたい」「推し×食の世界を堪能してほしい」という想いから生まれたことを忘れずに、そこでしか味わえない料理を楽しみたいですね♪